一冊の本についてーSIDE:A 西山大地の場合

『そろそろ、返してよ』

ある日突然届いたLINEの文面に驚いた。まったく心当たりがなかったからだ。

『返してって、何を?』

あまりに唐突な問いかけだったので、挨拶もなしに即レスした。本当に、まったく覚えがなかった。

『覚えてないの?』
覚えてないの?――このセリフは聞いたことがある。元カノの誕生日を忘れていたときに言われた言葉。いやな響きだ。こちらが覚えていて当然だといわんばかりの傲慢さがある。こいつにそんなこと言われる筋合いがあったろうか。いや、ないな。

『だから、何を?』
問いかければ問いかけるだけ妙な気持ちになってくる。こいつに返すものなんてあったろうか。半年前、急に会社をやめたことについて詫びを入れろとでも言うのだろうか。だとしたら、迷惑をかけて申し訳ない気持ちもあるが、いまさら愚痴を言われたって困る。

『お前、そういうところなおしたほうがいいよ』

「ふざけんな」

反射的に、言葉が口をついて出た。『お前、そういうところなおしたほうがいいよ』?こっちのセリフだ。お前がそういう性格をなおせ。今すぐ。
現実に口から出た言葉を文字にすることはせずに、俺は打ち込む。

『よくわかんないけど、ごめん』

こういうときに、つい謝ってしまうあたりが日本人だと思う。他の言葉を考えるのが面倒くさいのだ。
前の会社を辞めてから会ってすらいない相手だ。当時はそこそこ仲良くしていたが、同期という特別な響きがなくなった今、こんなことを言われる筋合いはないはずだった。

「むかつくなあ」

イライラしながら、まあ、いいか、と自分に言い聞かせてLINEをブロックした。

SIDE:B 飯塚友春の場合